Inside The Story
ハイカーズデポ
土屋 智哉 つちや ともよし
Tomoyoshi Tsuchiya
1971年埼玉県生まれ。東京都三鷹市に店舗を構えるアウトドア専門店ハイカーズデポ店主。
著書に『ウルトラライトハイキング』(山と溪谷社)、共著に『“無人地帯”の遊び方 人力移動と野営』(グラフィック社)がある。
シンプルで実用性に優れたアウトドアの道具を提案するプロショップ「ハイカーズデポ」。全国のハイカーから絶大な信頼を寄せられている同店のオーナー土屋智哉さんに、共同企画モデルKete(ケテ)の設計に込めた思いを伺いました。
「一緒にものづくりをしませんか?」という私たちからの提案を快諾いただき、共同企画プロジェクトが始動しました。
ハイカーズデポはあくまでも小売店なので、製品をゼロからつくりあげるメーカーのような技術を持ちあわせているわけではありません。けれども、お互いのストロングポイント(強み)を掛け合わせていけば、これまでにない価値を持つプロダクトが生み出せるのではないか?そう考えて、今回の企画に参加させていただくことになりました。

それぞれの「強み」とは、どのようなものでしょうか。
macpacといえば、真っ先に思い浮かぶのがオリジナル生地のAzTec®︎(アズテック)です。コットンをベースに防水性を持たせた頑丈な生地で、UL(ウルトラライト)バックパックに使われる化学繊維と比べると重さはあります。しかし、天然素材ならではの強靭さを備え、擦れにも強いので藪漕ぎや沢登りといったハードな場面で真価を発揮してくれます。
では、ハイカーズデポの強みとは何か? 僕らはこれまで軽くてシンプルな道具を選び、お客様に提案してきましたが、自分たちが過去にフィールドで費やしてきた時間や、そこで蓄積された知恵もまた、大きな強みと言えるのではないかという思いに至ったんです。

たしかに経験や知識は、目には見えないけれど重要なリソースですね。
僕は大学の探検部時代からこれまで35年以上にわたり、あらゆるアウトドアアクティビティを体験してきました。昭和の登山から近年のロングディスタンスハイクまで、現場で実践を重ねながら最適と思える道具を選び、提案してきたわけですが、いま改めて思うのは、「古さと新しさ、双方の良さをあわせ持つものこそが、真に優れた道具と言えるのではないか」ということです。

最新技術でつくられたものが、必ずしも最高とは限らないと。
最新素材を用いた多機能なバックパックは、軽量で使い勝手に優れる反面、生地がデリケートであるがゆえに扱いが難しかったり、経年劣化が避けられないという側面があります。
一方で、古き良き時代のリュックサックは、機能や重量の面では一歩譲るものの、頑丈ゆえの安心感がある。壊れにくく、長期にわたって使い続けられるのは大きなメリットです。
この両者の利点を融合させた製品を生み出せないか。スタッフと検討を重ねて浮かんできたのが、かつて主流だった登山道具の象徴であるキスリングを、現代の価値観でリボーン(再誕)させるというアイデアでした。

キスリングとは、どのような道具なのでしょうか。
キスリングは、昭和の日本の山岳文化を支えたキャンバス(帆布)製のリュックサックです。その重厚な佇まいは、一見すると現代のUL的な価値観のプロダクトとは対極にあるように思えますが、トップリッド(雨蓋)も腰ベルトもない極めてシンプルな構造は、実はULのバックパックの本質と通じるものがあるのではないかと、以前から感じていたんです。

そう言われてみると、そのミニマルな佇まいは、現在のULパックの意匠を先取りしているようにも思えます。
この考えをさらに推し進めて到達したのが「AzTec®︎を用いて、キスリングを現代風に再現する」というコンセプトでした。
フロントポケットなどのパーツや生地の切り返しを極力減らし、ストラップ類や背面パッドも全て着脱できる仕様にしています。破損リスクを抑えるため、開口部にはシンプルな巾着式を採用しました。長めのデイジーチェーンを配したのは、使い手が好みに応じてポケットやポーチを自由に取り付けられるようにするためです。
こうした設計の根底には、アクティビティに応じて使い勝手を各自が調節できる「可変性」を追求するULガレージメーカーと共鳴する思想(Make Your Own Gear)が流れていると思います。
既製品をそのまま使うのではなく、自ら「編集する」という考え方ですね。
2010年代以降、ULハイキングが広く認知されていくにつれて、多種多様なバックパックが登場してきました。その多くは差異化のために便利な機能をどんどん「付加」していったわけですが、しかし皮肉なことに、機能が増えるほどユーザーは、メーカーがあらかじめ用意した機能に従って行動する「受け身」の姿勢を強いられるようになってしまったと感じています。

誰もが同じようなスタイルで、同じ道を辿るようになってしまったと。
アウトドアアクティビティの醍醐味は、各々が自分なりの遊び方を自由に追求できる点にあります。整備された登山道から外れて藪の中へ分け入ったり、沢登りや渓流釣りなどの技術を身につけて、より深く自然の中に踏み込んだり。そうした挑戦を経て、初めて目にすることのできる景色があると思うんです。
そのための道具だって、自由に改良していいはずですよね。試行錯誤を積み重ねることで楽しみの幅は広がり、経験値も上がっていく。そうすれば、アウトドアでの遊びはよりいっそう豊かになるでしょう。
かつての登山者がシンプルな道具をアレンジして独自のルートを開拓していったように、現在のトレンドとは一線を画す「Kete」を自分らしく使いこなして、アクティビティの新たな楽しみを探求してもらえたら嬉しいですね。



























